小さなお茶会 ~じるこん堂へようこそ~

匂いの迷路をひげの指すとおり進めば 少々思わぬことに出くわしても辿りつける…らしい。

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秋里和国 『眠れる森の美男』 

眠れる森の美男

<作品メモ>
眠れる森の美男
秋里和国

【プチフラワー】 昭和61年(1986年) 3月号~7月号 掲載
小学館 【PFコミックス】 出版
昭和61年(1986年) 9月 初版発行
平成6年 1994年 5月 第21版発行分)
定価 : 500円(本体485円) P197



物語は『花のO-ENステップ』シリーズで登場した陽成高校の福耳理事長の怒号で始まる。

んの、親不孝者!!
誰のおかげで医者になれたと思ってるんだっ」


「わたしの並々ならぬ努力とたぐいまれなる才能のおかげ」

ばかもんっ、親の金のおかげだ!!」





人はわたしをひねくれものと呼ぶ。



時に1982年。



男系家族の末っ子として育った友井久嗣(ともいひさつぐ)は女が大のニガ手。
レジデント(研修医)としてN.Y.に渡った彼は、そこで運命の人、リチャード・ステインと出会い、ゲイとして目覚める…!?
E男(いいおとこ)たちのアブ・ノーマルな世界を描くセクシュアルロマン


------表紙裏扉より。








昭和58年(1983年)3月号掲載の『気分はもう正方形』というマンガの中で、学校の新米先生山村雪弘とその彼女の女子高生・美浜利保子ちゃんの間でお邪魔虫として強引グマイウェイで割って入るアラブの王様ばりのヒゲをたくわえた
「ヤな奴」
「変態」
「皮肉屋で開けっぴろげなホモ」

として登場した脇役・友井久嗣(ともいひさつぐ)。

その彼が3年後には主人公となって単行本のマンガになったのが、この『眠れる森の美男』です。


この『気分はもう正方形』(掲載時:1983年)の時、すでに友井さんは医者としてN.Y.から1年ぶりに帰国したという設定になっており、大学時代に“お気に入り“の後輩だった雪弘くんのアパートに転がり込みます。

「むこうで恋人ができていっしょに暮らしたんだけど別れてね。
そしたらホームシックにかかっちまって」
 (と言いながら雪弘くんの手を握る) 

「利保子ちゃんっていったっけ?」

「はい」

「名前だけはかわいいね」

「!!」

とまあ、脇役のころからこの友井さんは筋金のはいった皮肉屋っぷりを披露していたのですが、設定もほとんどそのままに『眠れる森の美男』の主人公として再登場するのでした。






(以下ネタばれ注意)
この『眠れる森の美男』は時間軸上ではN.Y.から帰国した直後の『気分はもう正方形』以前のお話になります。
例えていうなら「友井久嗣・エピソード1」というところでしょうか。



「あんたとしてみりゃ、自分がゲイであることに目覚めて、帰国してみりゃかわいい後輩に彼女ができててちょっとちょっかい出してみたくなったんだろうけど。
ま、あきらめんだね」


と『正方形』の一角を担う利保子ちゃんの親友でありレズ系の愛ちゃんがラストで説明文的解説を加えている通り、「エピソード1」では友井さんがアメリカはN.Y.で本格的にホモに目覚める過程が綿密に描かれています。

この『気分はもう正方形』で登場したコミカルかつシニカルな極めて個性的なキャラの友井さんは、『眠れる森の美男』でもその微妙なキャラクターを堅持していますが、物語そものもは、ストーリーが進むに従いその性質をギャグからシリアスへと比重を移行していきます。(本人はギャグなつもりは毛頭ないでしょうが)




友井さんが親の期待を裏切ってN.Y.の地に降りたったのがP30。
P42で「運命の人」、外科部長のリチャード・ステイン先生と始めて会い、P83でそのステイン先生友井さんはキスされます。
その意味と自分の気持ち(性質)に気が付き腑に落ちるまでの様子を描いたのがP91目。
全P197のうち、約半分のページを費やし友井さんの「目覚め」の過程が淡々と丁寧に描かれています。

もちろんタイトルは「眠れる森の美女」のパロディーです。
ただし、目覚めて万歳とはならないのが秋里和国流。


インテリジェンス同士の恋愛とはいえ、友井さんリチャードの恋愛観はお国柄なのか、はたまたホモとしての年季の差なのか単なる個人的嗜好の差なのか、後半二人はすれ違いをみせます。

日本では慶応ボーイで金持ち一族の医大生というだけでちやほやされ、変人とも言われるマイペースさで生きてきた友井さんも、アメリカ育ちのドイツ人、リチャードの奔放な行動に悩まされます。

「束縛されるのは好きじゃない。
きみだって浮気したのなんのってヒステリーになる女は嫌いだろ」


友井さんと付き合っていても気になる男が現れ興味があれば関係していまうことを悪びれもしません。

多分、自分の行動で他人が悩むことはあっても他人の行動に自分が悩まされる、なんてのは友井さんの人生で始めてのことかもしれません。

「どうしたん、眉間にシワよせちゃってー」

と同僚に指摘され、
(嫉妬で顔にヒズミが入ってるんだ)
と自分で自分の状態を的確端的に表現していくらいに冷静ではありますが、脳天気で自分勝手を自負する友井さんの顔つきがリチャードとの恋愛で変化していきます。

浮気されたり、スワッピングを勧められたりとカルチャーショックを受けながらもイヤなものはイヤだ!と主張します。

「幼稚園児じゃあるまいし」

と苦言を呈されても、自分の道徳観を曲げません。
やはり、日本人にしてはちょっと珍しいタイプかもしれません。


「愛してるよ」とちゃんと言われたり、ちょっとした独占欲を示されるだけで単純に嬉しくなるのはホモも同じです。
友井さんも人間ですから。






しかし、物語は1982年

「アクエイアード Acquired (後天性)
 イミューン Immune (免疫)
 ディフィシンシィー Deficiency (不全)
 シンドローム Syndrome (症候群)


エイズ AIDS

昨年6月に同性愛者の間に患者が発見されて以来、その数は増加する一方です。

えー、これはその名のとおり、病気に対する免疫がなくなりあらゆる病気を発病、死に至ります。
感染ルートは性交による血液感染とみられており、不特定多数との乱れた性生活により、この患者はますます増えるでしょう」
 (*作中セリフより)




病院の医者であることから、当時新しいタイプの感染症の発生に先に危機感を抱き始めるのはリチャードの方です。

かつて自分が気ままに付き合い捨てた相手がエイズで死んだと知り、あっさりと友井さんに別れを告げ去っていきます。




「医者のくせに

エイズという病気から逃げるんだ。



そうだ!
そうに決まってる!

エイズが怖くて逃げるんだ! あんちきしょう!!



奇病が怖くてオカマがほれるか!


あんな身勝手なやつ、ただで出国させてなるものか!」






怒りにまかせても笑いを忘れないのが友井さんの信条です。(本人はいたって真面目ですが)

しかし、「わたしを怒らせてただで済むと思うなよ」、と空港まで出かけたものの当の本人を目の前にして憎まれ口のひとつも言えなかった友井さん



物語上では友井さんリチャードに向かって「愛している」と言葉で示す場面は一度もありません。
言葉で「愛している」と言っているのはリチャードの方です。

でも、友井さんリチャードを愛していることはマンガを読んでいる読者には説明などなくとも自然と理解できます。


友井さんが言葉で愛を語るのはリチャードと別れる最後の最後になってからです。












「愛していたよ」



日本語で“さよなら”はなんて言うんだ?と聞かれて答えた時の言葉です。
ひねくれ者の友井さんらしい「I love you 」です。





リチャードが去った後、自室で学生時代の写真を手に友井さんは呟きます。

「雪弘か…。
日本へ帰って、雪弘をいじめてうさをはらそう。


そうすればまた、  楽しいこともあるさ」



こうして友井さんは『気分は正方形』=「友井久嗣・エピソード2」(1983年)へ戻るのでした。

「友井久嗣・エピソード3」は『花のO-ENステップ』第8巻収録の短編、
マンハッタン症候群(マンハッタン・シンドローム)』(*【週刊少女コミック昭和58年(1983年) 第22号に掲載 )へと繋がります。



1983年(昭和58年) 『気分はもう正方形』=「エピソード2」

1983年(昭和58年) 『マンハッタン症候群(マンハッタン・シンドローム)』=「エピソード3」

1986年(昭和61年) 『眠れる森の美男』=「エピソード1」


と、物語が描かれてきたことになります。
友井シリーズは、「ホモ」=「エロ描写満載」を期待している人にはかなり物足りないかもしれません。
あけすけなセリフがある割に、物語そのものはずいぶんとソフトな描写に終始しているからです。(少女マンガなので。…最近のはちょっと知りませんけど)

また、エイズという当時まだよく理解されず奇病扱いされていた病気を早期に取り上げたという点で、この『眠れる森の美男』はホモマンガの中でも先駆的だと思います。

そしてその上で、「ホモ」→「エイズ」→「不幸」→「悲劇」と単純に持っていっかないのが秋里和国先生のおもしろいところです。

ジェラシーに笑いを、突然の別れにもお笑いとセンチメンタルを!
どんな時も自尊心とお笑いの精神を忘れない。
素晴らしいです。






この後の友井さんのお話は「友井久嗣・エピソード4」を含めた『TOMOI』に続きます。
TOMOI


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